2009年03月06日

酒井俊 “Nights at the Circus vol.1” CD発売記念ライブ 第一夜

入谷なってるハウスにて。ピアノの田中信正とのデュオ。最初、静かなバラードが多かったこともあり、酒井俊と田中信正の音楽的な集中力が痛いほど伝わってきた。たとえば01や04などは特に、ピアノを鳴らさずに歌のみが漂う箇所が歌唱中にいくつかあるからか、歌の一語一語、ピアノの一音一音、そして無音の間にまで、なにか魂のような透明で軽いがずっしりくるものが篭められているように感じてくる。

一曲終わるごとに、演奏者からなにかそれまで演奏者を支配していたものがふっと抜けていくのがわかるが、それは聴き手側も同じ。それが抜けるごとに、じわじわとやってくる静かな感動の震えに襲われる感じといってよいだろうか。

もちろん、曲によっては違う感慨を持つこともあるのだが、この夜全体を通じて強く印象に残ったのは、上記のような手応えだった。

知っている歌、知らない歌、酒井の歌唱ではじめて知った歌、酒井以外の歌唱で思い入れのある歌と様々だが、いずれもこの時この場での酒井俊の歌という一回限りの体験として、とても深く納得し、心に残ったように思う。それは、たとえば13の歌と歌の合間に故川端民生への想いを語ったように、それぞれの歌ごとに酒井俊がいろいろな想いや風景を持っていて、それが(聴き手には具体的にはなんだかわからないにしても)強く伝わってくるからだろうか。追憶を歌う歌が多いのも、そう感じた所以かもしれない。

田中信正のピアノは、特に10、15、17が顕著だったと思うが、音楽的に高度な挑戦を感じさせつつ、歌が作ろうとしている世界に恐ろしいくらい馴染むことができるものだと感じた。どこでどうやってこんなピアノの表現を会得したのだろう(と、15を聴いている最中のメモに書いてある)。歌の後ろでの和音と歌の合間でのオブリガードといった形で、歌の伴奏という意味では比較的耳に馴染む感じで演奏された02も考え抜かれた深さを感じたし、(これは私の個人的な感覚だと思うが)トラディショナルなピアノのフレーズを一旦ばらばらにしてから組み立て直したような03も見事だった。

酒井俊が書いたものを読んだり、MCを聞いたり、あるいはいただいたメールの文面から、酒井と田中が今日ここに辿り着くまでに5年という歳月があったことは、一応知っている。その間にどういう方法でこの音楽が作られてきたのかには非常に興味があったので、その一端を終演後少しお話したときに伺おうかとも思ったが、止めた。多分、そういう部分の重みも聴き手の想像で個々に補って行くことで、今後の酒井(そして酒井−田中の)音楽の鑑賞の味わいが深くなるのではないかと思ったのだ。

そう思ったのは、もちろん、来週14日の公演通りクラシックス(13日は残念ながら行けない)や、それ以降の公演への期待ということでもある。

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一応、今後興味を持つだろう人のためにデータ的なことを書いておくと、02は照屋林賢、07はレナード・コーエン、08は早川義夫、09は高石ともやの曲。いずれも新譜「Nights at the Circus vol.1」に収録されている(この日のセットリストでは、05と18が新譜に収録されていない曲。05は「夢の名前」、18は「四丁目の犬」などで聴ける)。

以下、この日のセットリスト。

01 Old Black Joe
02 黄金三星〜肝にかかてぃ
03 You Are My Sunshine
04 叱られて
05 ヨイトマケの唄
06 Tennessee Waltz
07 Hallelujha
08 君のために
(休憩)
09 初恋
10 Nature Boy
11 かくれんぼの空
12 My Man
13 Alabama Song
14 The Way We Were
15 Crazy Love
16 Wonderful Tonight
enc
17 星影の小径
18 満月の夕べ
posted by aokiosamublog at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(ライブ)
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