中華菜館「同發」新館(1階ホール)にて。
総合演出・構成:浜田貴也、監修:寺十吾、振付:石丸だいこ、音楽:坂本弘道・栗木建。横浜市開港150周年記念事業の一環として始まった演劇・舞踊ワークショップ/公演の最終作品。
私は、たまたま舞台で共演した女優がここに客演していた関係で、「メリーさんの柩」(2008年3月)、「ハマのメリー伝説『市電うどん〜特盛版〜』」(2008年10〜11月)、「虎☆ハリマオ」(2009年1月)を観ているが、今回はその女優の筋ではなく、生演奏メンバーの顔ぶれ(坂本弘道、川口義之、桜井芳樹など)に加え、酒井俊がゲストで2曲歌う(しかも同發新館で「チャタヌガ・チュー・チュー」と「香港ブルース」を)という興味で、見物に出かけた。
ということもあって、公演の内容に関しては予習なしで臨んだわけだが、元々映画館だった同發新館を小屋に選んだということで、この世とあの世の境にある映画館が舞台、古き良き時代の様々な名作をモチーフに(時には舞台後ろのスクリーンに映写しつつ)、その映画館「新光電影館」であの世に渡る前に最後の理想の映画を撮ることになっていて、主人公たちがその映画を撮る顛末・・・という演目だった。古き良き時代の様々な名画モチーフは、その題名が台詞や歌に織り込まれたり、いくつかの作品の名場面が語られるのに加え、役として「伊藤大輔」が登場して、「鞍馬天狗」の思い出が語られたりする。
という筋に、群舞がからまって芝居は進む。最初の物語の設定を活弁スタイルで説明するところで、主役の少年役のふたりが噛んだり、やはり主演の石丸だいこが舞踊の途中でぐらついたり、他の場面でも台詞の言い澱みがあったりなど、楽日にしてこの完成度か?、という疑問は少し感じた。
生演奏が、坂本弘道と栗木建スコアがしっかりしているのか(?)、とても揺るぎない感じだったので、芝居・舞踊・群舞のふらつきが気になったようにも思う。
そんな中、一応の舞台背景が説明され終えたところで、開幕から30分弱くらいのところだろうか、客席後方から酒井俊が登場し、モチーフとなっている映画たちの撮られた時代を象徴するかのような古いジャズ風のアレンジで「チャタヌガ・チュー・チュー」を、それから酒井+桜井芳樹の共演時に聴かれるアレンジ(「ヤットコ、ヤットコ」というギターリフから始まる)をベースにしたスタイルで「香港ブルース」を歌う。二曲で約15分のステージだったから、それぞれ間奏などもはさみ同じ歌詞を二度繰り返したのではないかと思う(ちゃんとメモ取ってないが)。いつもの酒井俊のようなインプロヴィゼーションと拮抗する演奏ではなく、オーソドックスな趣もあるリラックスして聴ける演奏だったし、その上での自在な歌唱は、ライブとしてはとても楽しめた。
一方、「香港ブルース」ではスクリーンの映画も消え、この二曲がこの芝居の中でどういう役割を果たしているのか、よくわからないまま、次の場面へと進む。酒井俊が登場しない日も観ていたら、この場面転換の呼吸がわかったのかもしれない。
芝居の世界に入り込んで行けたのは、結局、開始後一時間くらい経ち、酒井の歌から群舞へと場面転換し、坂本のチェロの火花が散って群舞が終わると「新光電影館」の「館長」が登場し、ふたりの少年や「姉ちゃん」に、この映画館が封鎖され、中華料理店に生まれ変わる、という宣言をしたとき辺りからか。その後、この劇場にかける最後の作品としての「鞍馬天狗」の主演オーディション場面で役者個々の芸を見せて大いに笑いを誘い、そこから「姉ちゃん」が鞍馬天狗として迫力のある殺陣を見せる頃には、前半の拡散する空気とは打って変わって舞台に集中させられた。
殺陣については、舞台前半で短い殺陣の場面があったのが、後半の殺陣に集中させられる仕掛けになっていたようにも思う。
で、殺陣が終わって、「カット」の声がかかり、暗転。そこで流れる名画題名をモチーフにしていた歌の歌詞が中華料理のメニューにスライドしていき、再び明るくなると、舞台はいきなり中華料理店の店内に変わっている。そこでまた唐突に歌い出される「映画を見たら/中華街〜」という歌とその場面は、なんだか川島雄三「とんかつ一代」のラストシーン(とんかつ屋のカウンターで、唐突に「とんかつの油のにじむ/接吻をしようよ〜」と歌い出す)も思い出さされたが、ここで一気に気持ちを持っていかれ、泣く。
そして、お腹まで空いたから、この芝居や終幕の演出は成功だったといえよう。前半に感じた退屈さはすっかり忘れ、満足した気持ちで(中華街では昼に海員閣で食べたから)ニューグランドへと晩飯に向かった(で、たらふく食べた)。最終的には、とてもよい気持ちにしてもらえた。
なお、木戸銭は3500円だったが、1000円相当のお土産(同發のお菓子)が付き、同發の食事割引券もお土産に付いてるなど、イベント性も練られた興行だったことも、付け加えておく。また近々改装される(?)同發新館内の、いい雰囲気の内装を見納められたのもよかった。
2010年03月28日
横浜未来演劇人シアター フィナーレ公演「新光電影館」−横浜中華街 大祝祭版ー
posted by aokiosamublog at 23:00| 歌舞伎/演劇