2013年02月22日

新宿末廣亭二月下席

(Facebook「落語総見」グループと同内容 https://www.facebook.com/groups/rakugo99/

新宿末廣亭二月下席前の日まで池袋演芸場に行くつもりだったのが、朝起きて番組を眺めているうちに、末廣亭に心変わり。きっかけはなんだっただろうか。一晩経ったら忘れてしまったが、確か池袋のほうは香盤にあった柳亭市馬がこの日は出ないから、ということだったような気がする。

さて、まずは昼。春風亭一蔵『猫と金魚』は、「さっき新宿三丁目の駅で、女の人が子供料金の切符で乗ろうとして咎められ、だって女子供って言うから子供料金でいいと思った、と言った」というマクラは面白かったが、本編は番頭があまりバカそうでなかったのがちょっと残念。

江戸家小猫は、先日の親子競演ほどの衝撃はなかったが、席の所為か(下手側桟敷の真ん中くらい)特に蟋蟀や鈴虫、トノサマガエルなどが立体的に聴こえてきたのが面白かった。高座姿は真面目で堅そうだが妙な感じもあり、なかなか面白い味わいがあると思う。この日演ったのは、猫、鶯、ルリビタキ、蟋蟀、鈴虫、犬、アシカ、サイ、馬、シマウマ、テナガザル、キリン。あと初代猫八のキリン。

春風亭柳朝は、名跡に比べると線が細いかなといつも勝手に思っているが、噺(桃太郎)は面白かった。で、次の入船亭扇辰『たらちね』辺りから場内暖まり、柳家権太楼『代書屋』までかなり沸く。

ちなみに扇辰『たらちね』は、お清の名乗りを八五郎が読み返すと読経になってしまうところまで。橘家圓太郎『親子酒』は父親が次第に酔っ払ってくるところの変化が見事。あした順子のいつもの「男はあなた〜」では前座の林家けい木が高座に上げられたが、落語(平林)のときより面白く、ご本人自体に可笑しい味わいがあるのかもと思った。桂扇生『岸柳島』も気持よかったなあ。柳家権太楼『代書屋』はいつも通りだが(今日はちょっとだけ軽めだった気がした)、相変わらず爆笑。

柳亭市馬は今日は歌なし。三遊亭小円歌は『茄子と南瓜』で始まりいつもの『かちかち山』と歴代名人の出囃子を演ったあと、『さわぎ』(だったかな……)を唱い『かっぽれ』を踊る。この『かっぽれ』がまた、一段と素晴らしかったなあ。いつかは座敷に呼んでみたい(呼べたらね)。『遊びまShow!』(あとで知ったので行っていない)はもうやらないのだろうか。

仲入り後は耳に心地よくも特記すべきところはなく笑いも低調な感じだったが(楽しくなかったという意味ではない)、トリの春風亭一朝『片棒』は次男のお囃子をたっぷりと演り、それがまた素晴らしく、大満足。大変結構でございました。

あ、膝替わりのストレート松浦は鏡味仙三郎社中の代演で、この日は中国独楽のみだった。

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夜は、二番めの三遊亭ぬう生の『夜回り』から結構面白かったのに、漫才のとんぼ・まさみが、声や気持がまったく客席に届かない感じで(発するものがすべて舞台上にぼたぼた落ちて行く感じ)、なんだかすごい苦痛だった。まあ、自分が眠かった所為もあるんだろうけど、寄席であんなに長い15分は滅多にないな。ネタは忘れてしまった。

宝井琴調『芝居の喧嘩』を聴くのは三年振りくらいだが、水野十郎左衛門の子分の名前を言い立てるところは記憶にあるのと同様に鮮やかだった。で、次のペペ桜井のギター漫談で、刑務所に慰問に行ったネタ(刑務所慰問版の替え歌など)が可笑しく、その辺からとんぼ・まさみのいやな感じを忘れることができた。

そういえば、ペペ桜井(林家ペーの代演)の辺りから総勢45人(椅子席の後ろの5列分)の団体が少しずつ入り始めた。夜のトリの三遊亭白鳥によれば、「初めて落語聞くような団体さん45名」らしいが、ペペ桜井受けていたなー。

さて古今亭菊丸『河豚鍋』は、乞食に河豚を食べさせるくだりで「河豚食べてすぐ死んだら猪瀬新東京都知事も大喜び」というのが妙に可笑しかった。ダーク広和(この日は着物袴姿)は相変わらずのマニア振りで、江戸時代の奇術ネタを発見したと、扇子と大福帳の文字を同期させる奇術を(USBとかBluetoothでつながってるわけじゃないですから、と言いながら)披露。それをさらに、扇子を客に渡し袋に入れさせ、大福帳の文字を見せてから扇子を開くという風に展開させ、加えてiPadにもその文字を表示させていた。見事。

仲入り前の柳家小ゑん『稲葉さんの大冒険』は、元々柳家さん喬のために三遊亭圓丈が書き下ろした新作だが、恥ずかしながらさん喬で聴いたことはない。よって比べることはできないが、ミミズ掘りと勘違いされるところから松の木が欲しいんでしょうと勘違いされ松の木を背負わされるところへの飛躍(そして松の木を背負いながら団地の階段を上がるところなど)が、現実にそんなことはないはずなのに不思議な説得力があり、大したものだなあと思った(いやこういう書き方は失礼かな)。面白かった。ちなみに小ゑんは三遊亭歌之助の代演。

#小ゑんの高座が終わるくらいに、総勢45人の団体さんがほぼ全員着席した模様。

仲入り後は、あとで三遊亭白鳥にたっぷりいじられることになる橘家文左衛門『寄り合い酒』で、皆が乾物屋からものを盗んで来るところのあっけらかんとした感じと、与太郎が拾ってきた味噌(らしきもの)のにおいを嗅ぐところが特に見事。においについては、ほんとうにそのブツの臭いが漂ってくるような気すらした(実際は味噌なのだけれど)。

にゃん子・金魚はいつも通り、三遊亭歌武蔵は「千代大龍が“年男”という言葉を知らなかった。何気なくインタビューを見ていたら、今年は年男ですねと問われて『そうですか、もし今年ダメだったら、来年か再来年にがんばります!』と答えていた」という話から干支や七福神を知らない噺家の話という漫談だったが、どちらも団体さんに大受け(つい気になって様子を観察していた)。歌武蔵は、トリの白鳥に向けて場内を暖めるという役割としては、すごいいい仕事をしているなあと思った(これもなんか不遜な書き方で恐縮です)。

団体さんに受けていたと言えば、翁家勝丸の太神楽では「おおー」という、主に女の人からの黄色い?声が多数起きていた。太神楽としてはまあいつもお馴染みの芸だし、失敗もふたつかみっつあったのだが、寄席は初めて(と思しき)という人たちが太神楽で異様に盛り上がるという場面はよく見かける。修学旅行の子供達とか、落語は退屈そうでも太神楽には夢中になったりする。その様子を眺めるのは、別に優越感とかそういう感情ではなく、とても好ましいし楽しい。なんというか、寄席がマニアのものではなく「普通に楽しい場所」であることが確認できるのが嬉しいのである。

それはともかく、さて、トリの白鳥だが、「これをかけるのは二回め」という『ライバル達の芝浜(黄昏のライバル)』。『芝浜』をベースにした近未来が舞台の落語で、主人公が20年後(だったかな?)の、落語協会会長にまで上り詰めた橘家文左衛門。名だたるライバルたちを蹴落として落語界のトップの座を勝ち取ったが、ライバルがいないとなにか空しい。もう俺は落語はやらねえと腐る師匠を見て、弟子の久蔵がただひとり生き残っている(そして落語界からは引退している)かつてのライバルを見つけ出し、師匠にもう一度落語を、『芝浜』演ってもらうために、そのライバルを高座に引っ張り上げる…… という噺。

そのライバルとは、というところやその後の展開は、今後初めて聴かれる機会のために伏せておくが*、『芝浜』ベースという点はもちろん、白鳥自身の数々のネタや、橘家文左衛門の飲み逃げ事件や小円歌鬘事件なども含め様々な噺家のいろいろなエピソードがたんまりと鏤められていて、それも知らないと可笑しくない類いのものも多かったのに、白鳥言うところの「初めて落語聞くような団体さん」にも受けていた(さすがに団体さんの爆笑を誘う場面や爆笑している人は多くはなかったが)。相変わらずというかもう持ち味というか、上下が若干適当に見えたりキャラクターの切り替えが杜撰に見えたりという芸なのに、なんであそこまで可笑しく笑わされ、落語を知らないと思しき人たちを笑わせ、またサゲの部分で泣かされるのか、とても不思議ではある。しかしほんと、ものすごく面白かった。大満足。

ちなみに白鳥は終演後Twitterに「しかし客席には落語知らない団体さんが45名。マニアック落語ネタなのでどうしよう。急遽寄席バージョンに変化させてネタ内容もノーマルに改良。するとどうでしょう?自分でも想像しなかった人情噺に最後はなってしまったよ。びっくりだぜ!」と投稿していた。ということは、元はもっとマニアックだったということか。それもぜひ聴いてみたい。

なお、白鳥のトリネタはホームページ上に発表されているので、これから行かれる方はご参考に。

以下、この日の演目。

-昼席
林家けい木・・・・・平林
春風亭一蔵・・・・・猫と金魚
江戸家小猫・・・・・動物ものまね
春風亭柳朝・・・・・桃太郎
入船亭扇辰・・・・・たらちね
ホームラン・・・・・漫才
橘家圓太郎・・・・・親子酒
柳家さん吉・・・・・藪医者
あした順子・・・・・漫談
桂扇生・・・・・・・岸柳島
柳亭市馬・・・・・・牛ほめ
三遊亭小円歌・・・・三味線漫談
柳家権太楼・・・・・代書屋
(仲入り)
春風亭一之輔・・・・鮑のし
青空遊平・かほり・・漫才
柳亭左楽・・・・・・悋気の火の玉
桂文生・・・・・・・転失気
ストレート松浦・・・ジャグリング
春風亭一朝・・・・・片棒

-夜席
柳家フラワー・・・・出来心
三遊亭ぬう生・・・・夜回り
とんぼ・まさみ・・・漫才
柳亭左龍・・・・・・真田小僧
宝井琴調・・・・・・講談芝居の喧嘩
ペペ桜井・・・・・・ギター漫談
古今亭菊丸・・・・・河豚鍋
むかし家今松・・・・近日息子
ダーク広和・・・・・奇術
三升家小勝・・・・・蔵前駕篭
柳家小ゑん・・・・・稲葉さんの大冒険
(仲入り)
橘家文左衛門・・・・寄り合い酒
すず風にゃん子・金魚
 ・・・・・・・・・漫才
三遊亭歌武蔵・・・・漫談
桂ひな太郎・・・・・強情灸
翁家勝丸・・・・・・太神楽
三遊亭白鳥・・・・・ライバル達の芝浜(黄昏のライバル)
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸