2013年05月22日

浅草演芸ホール五月下席夜(昼も少し)



浅草演芸ホール五月下席昼の仲入り後から夜まで夜のトリの柳家喬太郎目当てで浅草へ。

で、久し振りに並木薮で一杯やってから、と思ったら生憎定休日だったので、昼のおしまいのほうから入場。ちょうど林家正蔵が『新聞記事』本編に入った辺りだった。

ちなみにこの日は、千葉テレビの収録が入っているとかで、途中入場だからか二階に案内されたが、二階までほぼ満員。正蔵も、この前見たときより受けていた。

それに輪をかけて、次の鈴々舎馬風の漫談が大受け。まあいつもの光景ではあるが、志ん生、小さん、三平のなんてことな思い出話だし、何度も聴いているのに、聴くとつい笑ってしまう。客は無邪気に笑っていればいいが、なんてことない漫談であれだけ受けを取られてしまうと、前後の出番の芸人は、特にネタをかるときなど、やりにくいことのほうが多いのではないか、となんとなく思う。たとえば、先述のとおり正蔵も結構受けていたのだが、次の馬風と比較すると笑いの熱量が圧倒的に違い、結局馬風の印象だけ残ってしまうのであった。まあそれも恐らく、客にはわからない寄席の修行のひとつというだろうとも思う。

トリの柳家権太楼は『寝床』。私は権太楼はかなり好きだし、この日も楽しかったが、この日の『寝床』についてはここだ! というところがつかめないまま、噺の途中(小僧の「あたしの寝床なんです」のサゲまで行かずに終了)でぽんと放り出された印象が残った(噺本編は20分くらいやったのかな?)。

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さて夜。

前座が上がる前に一階に移動して、まあよい位置の席が確保できたなとひと安心していたら、ここでひと騒動。後列座席の団体席が設えてあるところに座ったひとりのおじさんに、ホールの人が「そこ6時半に団体が来ますから」と告げたところ、おじさんいきなり「こっちは金払って入ってんのに好きなところに座れねえのか」と怒り出し、ホールのあんちゃんも頭に血が上ったのか、ちょっとしたつかみ合いになっていた。

結局、木戸銭返してお帰りいただいたようだが、その後も、前座の三遊亭しあわせが『子ほめ』本編に入った辺りで(多分)招待券のお客がどろどろと大勢入れ込まれて来て、前方空いてる席がほとんどないのにお年寄りが押し寄せて来てはうろうろとうしろに戻って行くというなんだかよくわからない状況になり、前から五列目(下手側ブロックの中央寄り通路側)の私の席からは高座が人影に隠れ、前後の席では、前の席のお父さんがずっと携帯電話でメールを打ってると思えば(音はしないが、角度によっては画面の明るさが目に入って意外に気が散る)、前座に続く柳家喬四郎『金明竹』のサゲ間近で後ろのお父さんが携帯電話に出て話し始めるとか、ご老人アナーキズムの花が大いに花開き、あるいは渦が盛大に渦巻いた。

さすがにうしろのお父さんには、「客席で電話はよしてくださいねー」とご注意申し上げたが、この時点では今日は落ち着いて聴けるのかなーという不安で胸いっぱいになる空気であった。

しかしそんな中、喬四郎『金明竹』は雑然と喧しい客席の空気に揺さぶられることなく筋がびしっと通っていたのは見事だったし、それは柳亭小燕枝『手紙無筆』も同様で半ば力尽くのように客の注意を高座に向けさせ、近藤志げるは完全に客の耳目をつかんでいた。この辺の展開は、個々の芸云々以上に、鮮やかで心奪われるものだった。その後は、先の心配など忘れて、落語と諸芸を楽しむことができた。

近藤志げるに続く古今亭志ん輔『紙入れ』は、ご本人は(たとえば古今亭菊之丞などと比べて)色っぽい感じの人ではない(と私は感じている)のだが、しかし「赤い襦袢」という言葉ひとつで色っぽい雰囲気をぐっと醸し出すところが見事だった。お内儀さんを少し強引なお人柄に描いていたところがそれにつながっているのかな、と聴いている最中に思ったが、理屈的な確信はない。ああ、あと、お内儀さんが新吉に迫るところでの“肩を揺する”仕草の繰り返しが、妙に可笑しかったな。あと旦那の間抜け振りも含めた人柄の描き方が、なんだか心地よかった。

続く川柳川柳は、最近では珍しい?『テレビグラフィティ』で、戦後の街頭テレビ、力道山/木村政彦/シャープ兄弟などお客の年齢層からいって受けそうなはずのネタ満載なのに、客席はどこでどう反応していいかつかみかねていた様子(最後は力尽くで笑わせていたが、川柳は終始機嫌悪そうにしていたが、まあこれもいつものことか)。

一方、林家正楽の紙切り(「相合い傘」に続いて注文で「横綱土俵入り」と、あと「ベッカム」を見事に切った)を挟んでの三遊亭白鳥の『アジアそば』は、客層からは意外なくらいに受けまくっていた。いや別にお年寄りをバカにしているわけではなく、ずっと馴染んでこられたであろう古典とはあまりに肌合いが違って感じられるだろうに、と浅慮していた次第だが、白鳥にあってはそういう固定したような観念は関係のない次元なのだな、と、この日も強く思った。『アジアそば』は、つい十日前にも聴いたので、噺が始まった辺りでは他のものが聴きたかったな、と些か残念に思ったが、噺が進むとすぐに、十日前と同じように笑っていた。

三遊亭歌之介は『勘定板』だったが、歌之介お目当てのお客が多かったのか、なんだか妙な盛り上がりがあった。確かに面白いんだが、そんな声高に笑うか? というくらい笑う人がぽつぽつといる、というような感じ。まあ、少しだけ不思議に感じた、という程度ではある。

***

『勘定板』から仲入り後の柳家喬之助『寄合酒』という流れの受け方を見ると、下ネタはやはり受けるんだなあという感じがしたのも、この日の印象(と思ってたらトリの柳家喬太郎が『禁酒番屋』をぶつけてきたわけだが)。

三遊亭歌る多『初天神』は金坊がよくて熊五郎も女流によくある無理な感じがなくて、「お前はいつからそんな肺活量になったんだ」「そんなこと言ってると自衛隊に入れるぞ」「なぜそこで呼吸を整える」などのくすぐりもとても面白かったが(引用は多分不正確です)、ふと、お母さんと男の子、という設定で演ったらどうかな、と思わせられる感じもあった。まあ、考えたことはあるが、いろいろあって捨てたのかもしれない。その辺はこちらの勝手な妄想。

柳家小せん『あくび指南』は、いつもながら高座姿がよくて見ていて気持ちがいいのと、あくびの師匠がちょっと厳しい感じなのが、却って噺の可笑しさを際立たせているのかなと思った。江戸家小猫を挟んでの入船亭扇遊『たらちめ』(「ちーん」まで)もきれいな古典でとても楽しかったが、そういえば今日の夜は漫談がなかったなと、この辺りで思う。割と息の抜き場のない番組ではあった。

さてトリの喬太郎『禁酒番屋』、近藤や番屋の役人が酔って行く過程がとにかく見事だし、近藤が勝手に酒屋を「お主も悪よのう」と悪事に引き入れて行くところのよい間、そしてそれを繰り返すことでの笑いの増幅とか、笑いどころもたくさん。全体に漂う軽さも含めて、ちょうどよい塩梅の『禁酒番屋』だった(マクラ含めて20分くらいだったか)。

トリの喬太郎が十日間、古典をかけるのか新作も交えるのかはわからないが、もし行ければもう何日か通いたい。浅草演芸ホールのことだから、客席の雰囲気にはいろいろ不満を覚えるだろうが、その辺を割り引いて考えれば、ぜひお薦めしたい番組と思った。

あと印象に残ったのは−

・近藤志げるが銀座でバーをやってたときに、「立川談志がやって来て、さんざんリクエストを唄わせられた挙げ句に勘定払わずに帰ってしまった」。その二三日後にちゃんと勘定を払いに来て、それがきっかけで近藤志げるが世に出たという話。

・で、近藤志げるは、例の「さっきニュースが入りました、今日午後何時何分、民主党の小沢一郎が〜」というネタでまだちょっとざわついていた客席をぐっとつかむや、『兄弟仁義』を唄い、リクエストを募って『帰り舟』『会いたかったぜ』『別れの一本杉』、最後に『浅草の唄』(つよいばかりが男じゃないと/いつか教えてくれた人/どこのどなたか知らないけれど/鳩といっしょに唄ってた/ああ浅草のその唄を サトウハチロー作詞)を見事に唄い上げたあと、「浅草でおばあさんが鳩に向かって100円玉を投げていた、見かねておばあさん鳩はお金を喰わねえよと教えてやったら、なんだいお前はバカだね、あそこに鳩のエサ100円って書いてある」とすっと落とすところの間がよかった。

・志ん輔『紙入れ』は、旦那から貰った紙入れ、というくだりがなくて、後段は手紙が見つかったか見つからなかったか、という流れになっていたが、そういうものなのか、はたまた紙入れのくだりを抜かしてしまったか。

・のいる・こいるはいつものネタの流れがちょっと渦巻いた感じで進み、その勢いで?とつぜんの一本締めで終わっていた。

・江戸家小猫はウグイス、犬、子猫、にわとりとお馴染みのネタのほか、熊の(怒ったときではない)普段の鳴き声だという「クマッ」というのと、あとテナガザルの鳴きまねでなぜか眼鏡を外して熱演というのが可笑しかった。

・仙三郎社中は、仙三郎、仙志郎、仙三。ずっと『ざるの取り分け』だと思い込んでたのが『花笠の取り分け』であることが判明。ひとり客席で恥じ入った。

以下、この日の演目。

-昼
林屋正蔵・・・・・・新聞記事
鈴々舎馬風・・・・・漫談
アサダ二世・・・・・奇術
柳家権太楼・・・・・寝床

-夜
三遊亭しあわせ・・・子ほめ
柳家喬四郎・・・・・金明竹
柳亭小燕枝・・・・・手紙無筆
近藤志げる・・・・・歌謡漫談
古今亭志ん輔・・・・紙入れ
川柳川柳・・・・・・テレビグラフィティ
林家正楽・・・・・・紙切り
三遊亭白鳥・・・・・アジアそば
三遊亭金時・・・・・癇癪
昭和のいる・こいる
 ・・・・・・・・・漫才
三遊亭歌之介・・・・勘定板
(仲入り)
柳家喬之助・・・・・寄合酒
ダーク広和・・・・・奇術
三遊亭歌る多・・・・初天神
柳家小せん・・・・・あくび指南
江戸家小猫・・・・・動物物真似
入船亭扇遊・・・・・たらちめ
鏡味仙三郎社中・・・太神楽曲芸
柳家喬太郎・・・・・禁酒番屋
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸