2013年05月31日

『音し噺の会 市馬青春を唄う』



浅草演芸ホール五月余一会『俵星玄蕃』の名唱でも知られる“歌手”柳亭市馬の唄をたっぷり堪能できるという、浅草演芸ホール五月余一会恒例の会。今回が四回めで、第一回はジャズ、第二回は「愛」、第三回はブルース。そして今年は「青春」と唄うという趣向。

いやまあ恒例と言っても、私は今回が初めての体験だが(市馬の唄は何度か聴いている)、バンドの演奏はともかく? 市馬の朗々とした唱いっぷりで聴く青春歌謡は、なかなか心に響いた。そりゃもちろん、歌唱力や表現力の点では、たとえば氷川きよし(先日コンサートを聴きに行った)などの本職に敵うものではないが、違う舞台の“唄”として捉えれば、たいそう魅力的であると思う。

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さて後半の唄と演奏に先立ち、出演者各々がまずは落語などを一席ずつ。

こういう、普段の寄席とは空気が異なる、まあお祭りのような会なので、前座の林家まめ平はともかく、二ツ目の古今亭駒次『生徒の作文』から受けまくって、客席もなかなかよい雰囲気。鉄道好きの女子が書いた、という設定の、おませな恋心を地下鉄の駅名読み込みで綴っていく作文が可笑しい。あと作文は、やくざの子供、“あそうたろう”など。

続く林家ひろ木の、津軽三味線を抱えた漫談が、なんだかわけがわからなくて、かなりの爆笑を誘っていた(林家木久扇の弟子というのが頷ける)。三味線と弾き語りでは、『ソーラン節』『花笠音頭』『津軽じょんがら節』を披露。三味線はまあまあで、しかし唄はひどいのだが、そのひどい唄が芸になっていると言ったら言い過ぎか。言い過ぎだな。でもかなり可笑しい。最後は『笑点のテーマ』を弾いて、クラクションの“パフ”も自分で演って終わり。

のだゆきは初めて見たが、野田由季の名前でクラシックのCDも出しているピアニストらしい。高座では、ピアニカで動物を表現すると言って、音を出すのではなくピアニカのホースで象の真似をしたり、クラクション/救急車/コンビニの音真似をしたりといった感じだが、めおと楽団ジキジキもやっている頭や顔でピアニカを弾くという芸や、リコーダー二本吹きやリード部分のみの演奏で、たいそう受けていた。爆笑という感じではないが、見ていて気持ちのよい高座だったな。

ロケット団の漫才は、“心理テスト”のネタで、動物園で美輪明宏とデートをしていると向こうから三島由紀夫がやって来て腹を斬る、という部分が特に可笑しかったのだが、これはどう可笑しかったのか説明が難しい(すみません)。いくつものネタがぽんぽん切り替わる展開が速さが気持ちよいのは、いつも通り。

入船亭扇辰『三方一両損』、柳亭市馬『芋俵』、柳家小せん『浪曲社長』は、それぞれの口舌に身を任しているのがたいへん心地よく、前半の落語その他、とても楽しさが凝縮されたような時間を過ごせた。林家正蔵も、いつもより伸び伸び演ってたような気がする。

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さて後半。全体の印象は最初に述べた通りだが、市馬の歌唱以外の部分では、演奏のグダグダ感(特にホーンセクション)による聴きづらさを、司会のひろ木のやはりグダグダな感じが救っていた、という感じか。もちろん、ばちっと決まった演奏を期待して出かけたわけではないので、まあ聴いていて“あらあら”という程度の“聴きづらさ”ではあるのだけど、そこにひろ木ご本人の可笑しさや市馬との会話の噛み合ない可笑しさが加わって、全体としてとても可笑しく楽しいショーになった、という感じかなと思う。

こういう感じの可笑しさ自体は、三遊亭小遊三、春風亭昇太らによる噺家デキシーバンドのにゅうおいらんずも同じだが、またひと味違った面白さがあった。次回また聴きに行くかどうかは、そのときどきの状況によるが、前半の落語などの楽しさを考えれば、無理がなければ行きたいかな。

細かい点を挙げておくと、本来ピアノは柳家花緑だが、今回はのだゆきが代演。個人的には、花が一輪あったほうがショーとして見ていて楽しいと思うが、どうだろうか。ピアノ演奏としては、『Too Young』の間奏などでその腕前を披露していた。

その『Too Young』の日本語詞、美空ひばり版でもお馴染みの水島哲のではなく、なんとこの日のために、『千と千尋の神隠し』や『崖の上のポニョ』の主題歌の作詞などで知られる作詞家・覚和歌子(入船亭扇辰夫人)による訳詞。細かいところは覚えていないが、なかなかよい日本語詞だったので、なにかの機会に録音してくれるといいな、と思った。

『青い山脈』では、ひろ木がイントロでカズーの演奏を披露し、全員ずっこけ。市馬とハモる部分もあったのだが、そこも下を唄う市馬に引きずられて爆笑を誘っていた。

アンコールの『青春時代』は、ホーンセクションによるコーラスも入り、なかなか賑やかだったし、音楽指導の中川英二郎による渋いトロンボーン・ソロもあったが、その後のソロ回しでの正蔵のトランペットがすべてを台無しにしていて笑った。

という次第で、とても楽しい会であった。

以下、この日の演目と曲目。

林家まめ平・・・・・林家まめ平
古今亭駒次・・・・・生徒の作文
林家ひろ木・・・・・津軽三味線漫談
入船亭扇辰・・・・・三方一両損(大岡捌きの手前まで)
のだゆき・・・・・・音楽パフォーマンス
柳亭市馬・・・・・・芋俵
林家正蔵・・・・・・小粒
ロケット団・・・・・漫才
柳家小せん・・・・・浪曲社長
(仲入り)
柳亭市馬 青春を唄う
-曲目
01 My Blue Heaven(私の青空)
作詞:George Whiting 作曲:Walter Donaldson 1927年(昭和2年)
訳詞:堀内敬三
歌唱:Gene Austin、Fats Domino、二村定一、榎本健一、高田渡など
02 青い背広で
作詞:佐藤惣之助 作曲:古賀政男 1937年(昭和12年)
歌唱:藤山一郎
03 Too Young
作詞:Sylvia Dee 作曲:Sidney Lippman 1951年(昭和26年)
訳詞:覚和歌子
歌唱:Nat King Cole、美空ひばりなど
04 さらば涙と言おう
作詞:阿久悠 作曲:鈴木邦彦 1971年(昭和46年)
歌唱:森田健作
05 青い山脈
作詞:西條八十 作曲:服部良一 1949年(昭和24年)
歌唱:藤山一郎
06 青春サイクリング
作詞:田中喜久子 作曲:古賀政男 1959年(昭和34年)
歌唱:小坂一也
(アンコール)
07 青春時代
作詞:阿久悠 作曲:森田公一 1976年(昭和51年)
歌唱:森田公一とトップギャラン

-メンバー
柳亭市馬・・・・・唄
林家正蔵・・・・・トランペット
入船亭扇辰・・・・ギター
柳家小せん・・・・トランペット
ロケット団
 倉本剛・・・・・アルトサックス
 三浦昌朗・・・・ベース
林家ひろ木・・・・司会、パーカッション、カズー
古今亭駒次・・・・ホルン
のだゆき・・・・・ピアノ
中川英二郎・・・・音楽指導、トロンボーン
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸