2013年06月28日

上野鈴本演芸場6月下席昼



上野鈴本演芸場下席昼開演直後、春風亭朝也『牛ほめ』が始まった辺りに入場。

松旭斉美智・美登の奇術のあと、桃月庵白酒の代演で隅田川馬石が高座に。先日の末廣亭(6月6日)と同じく、隅田川馬石『狸の札』の丁寧な手拭い使いに感心。

続く鈴々舎馬風はケーシー高峰〜毒蝮三太夫〜山田隆夫〜先代小さん〜当代正蔵〜先代三平の思い出語りで、何度聴いてもつい笑ってしまうのだが、正蔵が上がりやすいような配慮という側面もあるのだろうな、その辺番組によって調整しているだろうか、という印象も得た。

で、のだゆき挟んでのその林家正蔵は『松山鏡』、最近、特によいとは感じない噺家、積極的に嫌いな噺家についてもなるべく先入見を持たないように気を付けていて、今日の正蔵もそのつもりで聴いていたのだが、途中で「話の展開を知っているから、もういいんだけど」と思ってしまった。まだ多少、意地悪く聴いてしまっているのか? マクラの間に老夫婦が客席に入ってきて最前列に座ったとき、客いじりをしていたが、それが嫌味や説教にしか聴こえないのも残念。「話の最中に目の前に座られると話がどこまで進んだかわからなくなっちゃうんですよ、常識を弁えてくださいよ」という物言いで、ちょっと場内の空気が重く悪く堅くなっていたように思う。それがために、噺本編も最初からやや興醒めの態で聴くことになったのかもしれないが、逆に空気を軽くいい気持ちに柔らかくする機会だろうに、もったいない。

ちなみに連れは、「(『松山鏡』は)せっかく“死んだお父さんに会える”という話なんだから、鏡を覗いたときに“どうもすいません”とか“ああ、そのもじゃもじゃ頭は”とかやればいいのに」と感想を述べていたが、それはもちろん目指す芸風によるから必ずしもそうすればいいものとは思わないけれども、そう言いたくなる気持ちもわかる高座であった。話を運ぶ口舌に大きな瑕疵はないが、聴いていて落語の世界に連れてってくれないもどかしさを感じるというかなんというか。

古今亭文菊『浮世床』は、少しゆっくり目に喋る速度が、音楽でいえばよいグルーヴ感を生んでいて、聴いていて非常に気持ちがよい。「姉川の合戦」を読むところしか演らなかったが、聴いていて非常に満足度は高かった。

他の寄席より少し長めの林家正楽を挟んで、春風亭一朝は『野ざらし』。幇間まで行かない、八五郎が骨を釣ろうとする場面までだが、寛永寺やニコライ堂や増上寺の鐘の音の描写を演る型。全体に聴く側が力むことなく噺の世界に引き込まれるような塩梅で、これまたよい気持ちにさせてくれる高座だった。

仲入り後も落語は、「血の池地獄はカゴメとデルモンテに売却、と演ったら両社からクレームがついた」等今風のくすぐりが多いが浮ついた感じを感じさせない入船亭扇辰の『お血脈』、いつものぼやき口調がマクラからそのまま鋳掛屋や鰻屋の職人の子供を叱る口調に移行していくのが可笑しい柳家喜多八『いかけ屋』と、ああ、いい芸に触れたな、という高座が続く。

林家彦いち『熱血怪談部』は、つい先日(6月6日)に聴いたばかりということもあり、顧問の先生がとつぜん駄洒落を言うところとか後半化け物が出てきて先生が説教しまくるところなどが、自分が気持ちよいと思うメリハリや間や話の流れの感覚と少し違うなあ、などということも感じた。何年も前に作られた噺だからある程度完成形なのだろうに“熟れていないのでは?”という感想を抱いてしまった次第だが、まあそれこそ個人の好みの問題なのでどうでもいいといえばどうでもいい感想ではある。そしてそういう感想を感じながらも、力尽くで笑わせられてしまうのは悪くはない。この日感心した古典の芸と同じように、やはり、落語の世界というか、日常とは異なる世界を自然にすっ、と覗かせてくれるような楽しさを味わわせてもらえた。

以下、その他備忘。

・美智・美登のテーマ曲みたいになっている「さのさのさ」って歌は、誰のなんという歌だろうか。以前から気になっていたのを思い出した。思い出したので調べたら、渡辺ひろ美という人が歌っている『SANOSANOSA』という歌だった(作詞:岩上峰山、作曲:木下龍太郎)。

SANOSANOSA さのさのさ 渡辺ひろ美 (ワンコーラスのみ)

・のだゆきのピアニカ頭弾き、この日は『夕焼け小焼け』で、前回聴いたときの『証城寺の狸囃子』はグダグダだったが、この日は大成功。あと笑いネタではなく単に“上手い”ピアニカの両手弾きで『チムチムチェリー』も披露していた。

・林家正楽は、いつもの「相合い傘」のあと、注文で「竜」「紫陽花と犬」「隅田川の花火」「一富士二鷹」「先代正楽の高座姿」。

・扇辰は「ついさっき楽屋入りした」と言いながら、演題大宝恵(「おぼえ」と読む。鈴本のネタ帳)を高座に持って上がり、ネタ帳というものの簡単な説明をしたりしながら、噺に入っていた。

・翁家和楽社中は、和楽、小楽、和助の三人。

以下この日の演目。

春風亭朝也・・・・・牛ほめ
松旭斉美智・美登・・奇術
隅田川馬石・・・・・狸の札
鈴々舎馬風・・・・・漫談
のだゆき・・・・・・音楽パフォーマンス
林家正蔵・・・・・・松山鏡
古今亭文菊・・・・・浮世床
林家正楽・・・・・・紙切り
春風亭一朝・・・・・野ざらし
(仲入り)
ぺぺ桜井・・・・・・ギター漫談
入船亭扇辰・・・・・お血脈
柳家喜多八・・・・・いかけ屋
翁家和楽社中・・・・太神楽曲芸
林家彦いち・・・・・熱血怪談部
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸