2013年08月30日

浅草演芸ホール8月下席後半

浅草演芸ホール八月下席お客のことを書くのもなんだが、相変わらず浅草に来ると、市井のご老人の威厳というのはもう壊滅してしまったのか、という暗澹たる気持ちになる。

この日も、高座途中でうろうろ席を探すご老人もいれば、ビニール袋をカシャカシャ言わせるご老人、前座の高座とはいえ携帯電話を鳴らすだけでなく出て会話を始めるご老人など、およそ自分が舞台の芸を鑑賞しにきたということすらわかっていないのではないかというご老人が多数。

ちなみにこの日は、私と同じ列のご老人が携帯電話で話し始めたので、ご注意申し上げた。ご老人に当り前のことで注意しないとならないのは、ほんとうに辛い。

本来、寄席の客席にいつの間にか生えてきてそこにいるようなご老人の顔色を、私のような若輩者が窺うのがあり得べき格好ではないかと思うが、若い頃に遊んでおらず歳取ってからこういうところに来るようになるという人が大多数ならば、こういう状況の改善はもう絶望的に思える。

と言いつつ、そんなとっ散らかった客席の注意をぐっと高座に向けさせる噺家芸人の腕に触れて感動することもあるし、何しに来たんだかわからないようなご老人たちもあるきっかけで熱心に芸に耳目を傾ける瞬間というのがあるから、皆悪い人ではないし、まだとことん絶望するのは早い、とは思っているのだが。しかし、自分の世代もいずれは老人になるわけだし、そのときのことをいろいろ思い描くと、やはりつれづれ考えてしまう。

あとお客のことで言えば、“待ってましたたっぷり”オヤジがとつぜん湧いて出てきたが、なんだありゃ。今月の上席にもいたような気がするが、それ以前にもいたかしら。出てくる噺家芸人片っ端から、前座や代演にも声をかけるし、それほどでもない場面でも「名人」などと声をかける。声さえかからなければ、ただ無心に楽しんでいられるわけで、変なところで声をかけられると却って興醒めである。

ちなみに全員に声をかけるかというとそんなこともなく、却って声をかけない基準が知りたい。

あとこの日は大喜利で謎掛けがあったのだが、それにも客席から無理矢理参加しようとしていた(柳亭楽輔あたりが露骨に嫌な顔をしていたなあ)。明らかに迷惑なのだが、ご本人は粋のつもりなんだろな。惨めだ。

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それはともかく、個人的には席について早々(昔昔亭桃之助『犬の目』が始まった辺り)、古今亭今輔が代演だったのと(ネタはそろそろ違うのを聴きたいが)、そこから瀧川鯉昇『蛇含草』、国分健二の漫談、笑福亭鶴光『秘伝書』、春風亭小柳枝『蝦蟇の油』、うめ吉の唄と踊りと続く流れに遭遇したのがうれしい。鯉昇『蛇含草』と小柳枝『蝦蟇の油』は、いずれも肩の凝らないすっとした古典を楽しめたし、特に鯉昇は、噺は暑っ苦しいネタなのにとても涼やかで、夏の終わりに聴けたが幸いと思う(草を舐める場面がなく「履物(吐きもの)は表でしてきます」でサゲなので、『蛇含草』と言っていいのかは自信なし)。

うめ吉は、白い麻に薄い緑の縞の着物が、蕩けるように美しかった。『三階節』『品川甚句』『深川くずし』『よりを戻して』と唄ったあと、この夏二回めの『縁かいな』の踊りを観ることができて感激。来年の夏の愉しみができた。

昼の色物では、ボンボンブラザースの鼻の上に紙を立てるやつを久々に観られたのもうれしかった。

トリの三笑亭笑三『異母兄弟』は、声の調子が大変お悪かったけれど、それ以外は達者で、さんざ聴いた噺なのに笑う。続く大喜利も、エロネタ、お年寄り(笑三)をいじるネタなどが軽やかで、昼席は肩の力が抜けるいい番組だったと思う。

ちなみに大喜利では、主に笑福亭羽光がエロネタで墨付けと三遊亭遊かりの張り扇を受ける役割を牽引、最終的には柳亭楽輔、昔昔亭桃之助なども“ヒール”に加わっていた。これもまた、来年の夏の愉しみである。

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夜席。笑福亭羽光は大喜利やマクラは達者で面白いのに、本編『AKB親子』に入った途端噛むし間が悪いしなのは残念。ネタとしては、現代の噺なのにやけに古典みたいな番頭が出てきたり、旦那がAKB48のコンサートを見に来て「いや、年寄りの隠れ遊びじゃから……」と言ったりするところは可笑しかった。

二つ目昇進の柳亭明楽、春風亭吉好は、吉好のほうがずっと達者だが、高座を観ていて可笑しいのは明楽のほう。グダグダになりながらの中でのアドリブに何度も笑う。よい味わい。

神田陽子『与謝野晶子伝』も相変わらず調子よく、昔昔亭桃太郎『結婚相談所』も相変わらずの可笑しさだった。

仲入り後は「禁演落語の会」で、まずは読売新聞編集委員・長井好弘の解説が15分ほど、内容は知ってることだが話の運び方がなかなか面白い。桂夏丸『後生鰻』とトリの三遊亭金遊『権助提灯』以外の三本は、高座で聴くのは初めてだったかも。久々に聴いた柳家蝠丸が『坊主の遊び』で、これは大変結構だった。金遊『権助提灯』は、やけに暗い感じの『権助提灯』で、嫌いではないが、どこをつかんでよいのかが最後までわからなかった。

膝替わりの春風亭美由紀は、『新土佐節』『東京音頭』など。

以下、この日の演目。

−昼
昔昔亭桃之助・・・・犬の目
松旭斎八重子プラスワン
 ・・・・・・・・・マジック
古今亭今輔・・・・・日本史発掘
瀧川鯉昇・・・・・・蛇含草
国分健二・・・・・・漫談
笑福亭鶴光・・・・・秘伝書
春風亭小柳枝・・・・蝦蟇の油
檜山うめ吉・・・・・俗曲
三笑亭夢丸・・・・・漫談
(仲入り)
三笑亭朝夢・・・・・お菊の皿
(仲入り)
東京太・ゆめ子・・・漫才
柳亭楽輔・・・・・・火焔太鼓
ボンボンブラザース
 ・・・・・・・・・曲芸
三笑亭笑三・・・・・異母兄弟
大喜利『お笑い七福神謎かけ』
司会)三笑亭笑三、アシスタント)三遊亭遊かり
下手から、三笑亭朝夢、三遊亭遊里、昔昔亭桃之助、春風亭昇也、柳亭楽輔、笑福亭羽光

−夜
桂伸力・・・・・・・子ほめ
笑福亭羽光・・・・・AKB親子
新山真理・・・・・・漫談
柳亭明楽・・・・・・たらちね(二ツ目昇進)
春風亭吉好・・・・・紀州(二ツ目昇進)
コントD51・・・・コント
神田陽子・・・・・・与謝野晶子伝
三遊亭笑遊・・・・・漫談
北見マキ・・・・・・マジック
昔昔亭桃太郎・・・・結婚相談所
(仲入り)
「禁演落語の会」
長井好弘・・・・・・解説
桂夏丸・・・・・・・後生鰻
春風亭笑松・・・・・星野屋
Wモアモア・・・・・漫才
雷門小助六・・・・・磯の鮑
柳家蝠丸・・・・・・坊主の遊び
春風亭美由紀・・・・俗曲
三遊亭金遊・・・・・権助提灯
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸