浅草演芸ホール八月上席昼 夏休み特別興行前半毎年八月の恒例となった浅草演芸ホールの噺家デキシーランドジャズバンド「にゅうおいらんず」ライブ。
今年は、創設メンバーかつステージでは司会進行も務めていた三遊亭右紋がとても残念ながら一月に逝去し、夏の公演はどうなるのかな、と思っていたが、アロハマンダラーズでギターを担当する春風亭柳橋がギターバンジョー(バンジョーのボディーながらギターと同じ6弦構成・同じ調律の楽器。ギターと同じ奏法で、バンジョーの音色が出せる)として参加。今年も例年通り、八月の上席昼を沸かせてくれることになった。
そして今年は、もうひと組バンド−5日までの前半のみの出演だが、落語芸術協会所属でも知られる浅草ジンタが出演。つかみこそ『笑点のテーマ』を演奏したものの、いわゆるボーイズもののような笑いを提供してくれるわけではないし、いつもの高速スラップベース中心のハード・マーチの趣きはそのままだが、それが寄席の音響にも不思議とよく合っていて、恐らく普段若いバンドなど聴かないであろう年齢層のお客も、自然と手拍子を打ち、楽しんでいた。演奏はもちろん、そのお客の姿にもなにか目頭が熱くなるものがあった。(ちなみに、にゅうおいらんずの正式メンバーとなったソプラノサックスのミーカチントは、元は浅草ジンタのメンバー)
で、にゅうおいらんずの今年の新機軸は、春風亭昇太の歌唱! これから聴きに行かれる方のために曲名は伏せておくが(上席が終わったら追記する)、とつとつとした歌い方が意外にその楽曲に合ってるし、あんたがその歌詞歌うか! という可笑しさがなかなかの味わいだった。
#春風亭昇太が歌ったのは『私の青空』(My Blue Heaven)でした。独身が売り物の昇太が歌う「♫狭いながらも楽しい我が家〜」という歌詞について、演奏終了後、案の定小遊三に突っ込まれていた。(14.8.11追記)
新メンバーの柳橋のギターバンジョーは、バンジョーの不在を十分サポートしてはいたが、もう少しギターバンジョーとしての存在感が出てくるといいなと思った。これはまた来年の楽しみ。バンド全体は、安定かつグルーヴ感満載のリズム隊はいつも通り、三遊亭小遊三のトランペットと昇太のトロンボーンは腕を上げていたように思う。
ちなみに今年は、小遊三−昇太のみのトークタイムはなく、四曲めの『ハロー・ドーリー』のあと全員が高座に残る形でお喋りと手拭いプレゼントのコーナーとなっていた。昨年までの、一番演奏が過酷なこの二人を残し他のメンバーが楽屋に引っ込んでしまうというネタも可笑しかったのだが、今年は今年なりに楽しませてもらった。なおトークタイムは昨年までと異なる趣きだったものの、ライブの終わりはいつも通り、お馴染みのサゲで笑わせてもらった。
落語や他の演芸も、夏のお祭りらしく、普段の寄席と比べて独特の高揚感があり、ほかの季節にはない寄席の味わいを味わえると思う。前座の古今亭今いちの妙なハイテンションが意外に印象に残る存在なのを知ったのもこの日の収穫だったか。かけたネタ(動物園)も意外にしっかりしていて楽しめた。千葉大学の落研の出身で古今亭今輔の弟子、今後どう化けるのかちょっと楽しみに思った。
浅草ジンタのあとの三遊亭遊史郎『たがや』は、本編に入る前のマクラしか演らなかったが、花火の掛け声を指南するくだりの「玉屋〜」の異様に長い掛け声が見事かつ可笑しい。たまたまおとつい三遊亭萬窓でも『たがや』聴いたので、(遊史郎はマクラだけとはいえ)その違いも楽しめた。
あとはぴろきのギタレレ漫談と古今亭壽輔『しりとり都都逸』、宮田陽昇の漫才、笑福亭鶴光『袈裟御前』がとりわけ笑いの渦を渦巻かせていた。ぴろきは、いつも以上に受けていて、実際笑いの渦もいつも以上にぐいぐい来る感じがあったように思った。自虐の感じが、これまで聴いてきた経験ではすーっと消えていく儚さが特徴だと思っていたのだけれど(まあたまたまそういうときに当たっていたのかもしれない)、この日はちょっととんがった感じというかざらざらした感じというか、そういう手応えだった。笑いの量だけでいえば、ここまででは一番だったかな。
ボンボンブラザースのおふたりは、暑い盛りに揃ってジャケットの下にベストを着込んで蝶ネクタイ、なのに涼やかで、いつもながらなんとも粋だった。
以下、この日の演目
古今亭今いち・・・・動物園
三笑亭遊夢・・・・・平林
浅草ジンタ・・・・・笑点のテーマ、百万光年の彼方から、男はつらいよ
三遊亭遊史郎・・・・たがや(の手前まで)
三遊亭遊之介・・・・浮世床
ぴろき・・・・・・・ギタレレ漫談
春風亭柳橋・・・・・小言念仏
瀧川鯉昇・・・・・・うなぎ屋
ボンボンブラザース
・・・・・・・・・曲芸
桂伸乃介・・・・・・気の長短
古今亭壽輔・・・・・しりとり都都逸
宮田陽昇・・・・・・漫才
笑福亭鶴光・・・・・袈裟御前
春風亭昇太・・・・・漫談
北見伸&スティファニー
・・・・・・・・・奇術
三遊亭小遊三・・・・悋気の火の玉
(仲入り)
噺家バンド大喜利 にゅうおいらんず(デキシーライブ演奏)
-曲目
導入 聖者の行進
01 タイガーラグ
02 私の青空
03 ハロー・ドーリー
04 セントルイス・ブルース
05 聖者の行進
-メンバー
ギターバンジョー・・春風亭柳橋
ソプラノサックス・・ミーカチント
トランペット・・・・三遊亭小遊三
トロンボーン・・・・春風亭昇太
ピアノ・・・・・・・桂伸乃介
ベース・・・・・・・ベン片岡
ドラム・・・・・・・高橋徹
余談になるが、この日の浅草演芸ホール昼席、幕開けから最前列に泥酔した先輩がいて、すごい変な間で大声で笑ってるなあと見てたら、高座の芸人に話しかける頻度が高くなってきた。
と、浅草ジンタが出る前にいったん幕が下り、ホールの係員(不埒な客がいるといつも毅然と対峙しているお兄ちゃん)につまみ出されていた。お兄ちゃんの「うちは金払や何やってもいいとこじゃねえんだよ」って一言がよかったな。先輩もまあ、可愛らしいものだったけれど。
番組の内容とは関係ないが、こういう光景は浅草以外の寄席ではほとんど見られないので(何年か前に池袋演芸場で酔漢が暴れたか粗相をしたか、という話を耳にしたことはあるけれど)、記しておく。
2014年08月02日
浅草演芸ホール8月上席昼
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸