2014年11月10日

浅草演芸ホール11月上席昼夜

浅草演芸ホール十一月上席昼(仲入り前から)および夜この日の演目。

鈴々舎馬風・・・・・漫談
三遊亭小円歌・・・・三味線漫談
金原亭馬の助・・・・権助芝居、百面相
柳家小ゑん・・・・・ほっとけない娘
(仲入り)
金原亭駒三・・・・・親子酒
ロケット団・・・・・漫才
三遊亭歌武蔵・・・・漫談
桃月庵白酒・・・・・ざる屋
アサダ二世・・・・・マジック
金原亭伯楽・・・・・子別れ(子は鎹)

夜の部
桃月庵はまぐり・・・道灌
桂三木男・・・・・・夜の慣用句
柳家さん喬・・・・・真田小僧
ペペ桜井・・・・・・ギター漫談
蜃気楼龍玉・・・・・たらちね
三遊亭天どん・・・・(失念)
翁家社中・・・・・・曲芸
桂南喬・・・・・・・大安売り
林家たい平・・・・・ぞろぞろ
すず風にゃん子・金魚
 ・・・・・・・・・漫才
五街道雲助・・・・・町内の若い衆
(仲入り)
三遊亭鬼丸・・・・・漫談
ダーク広和・・・・・マジック
古今亭菊千代・・・・雑俳
吉原朝馬・・・・・・六尺棒
ホームラン・・・・・漫才
三遊亭圓丈・・・・・金さん銀さん
柳家小菊・・・・・・粋曲
隅田川馬石・・・・・甲府ぃ

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仲入り前の鈴々舎馬風から見物*1。落語界や二世落語家とスポーツの世界をネタにしたいつもの漫談は、羽生結弦の練習中の衝突事故にちょっと触れた以外はほぼ寸分違わずいつも通り。続く三遊亭小円歌もまあだいたいいつもの演目だった。

金原亭馬の助は『権助芝居』で、大黒様に恵比寿様、達磨大師の修行姿に分福茶釜の狸とお馴染みの顔ぶれながら百面相も見られたのがうれしい。赤い手拭いを頬被りにした線香花火の真似はちょいと珍しかったか。

仲入り直前の柳家小ゑん『ほっとけない娘』(2011年落語協会台本募集に応募された小林由紀作の改作)は、奈良の仏像をモチーフにして仏像好きの娘の縁談の様子を描いた新作。広目天が踏んづけている邪鬼にまで目を配ったりとか、興福寺の阿修羅像を細かくネタにしてたりとか、大仏殿や興福寺だけでなく薬師寺や法隆寺や中宮寺まで足を延ばしたりなどなど、仏像好きとしてはうれしい噺だが、時間の制約を無視して言えば、場所を奈良に限定したとしても浄瑠璃寺や東大寺三月堂、新薬師寺なども採り上げてもらいたかったかな。

さらに言えば五刧院の五劫思惟阿弥陀像だって落としてほしくない。せっかく中宮寺まで行ったのだからもうちょいと山を登って松尾寺の若い時分の大黒様像とか、あるいは近鉄奈良からも電車ですぐの、先般TVCMで採り上げられていた秋篠寺の伎芸天のネタも聴きたかったし、あと大仏殿のくだりで広目天が出てくるが、広目天やはり戒壇院のほうにも触れてほしかったりとか、中宮寺の弥勒菩薩は(まあ好みや馴染みの問題だが)如意輪観音と言ってもらいたかったりとか、全体的に各仏像のネタの掘り下げ方が浅いとか、ひとつひとつの仏像がもっと浮かび上がってくるようなマニアックな視点が足りない心持ちがしたりとか、こちらも仏像好きだけに残念なところに多々気付いてしまった。鎌倉の寺も採り上げ、江ノ電など電車ネタもふんだんに取り込んだ噺に展開することもあるようだが、仏像に関してもより熟成させたものを、改めて聴いてみたいと思った。

さて仲入り後は、もっとも客席を笑わせていたのはロケット団の漫才(いつもの四字熟語と欽ちゃんvs北朝鮮ネタ)と三遊亭歌武蔵の相撲界をネタにした漫談だったが、金原亭駒三『親子酒』、桃月庵白酒『ざる屋』、金原亭伯楽『子別れ(子は鎹)』と、いずれも心持ちのよい古典をじっくり堪能。とんでもない発想の飛躍とか仕掛けなどがある落語も楽しいが、15〜30分くらいの短い時間でこうした肩の凝らない古典をしみじみ味わえるのも落語の滋味だなとつくづく思った。特に伯楽が、最前列に座っていた親子連れから「今日は学芸会の振り替え休日で学校が休みだから大好きな寄席に来た」という話を引き出してから『子別れ』を外連味なくしかしすーっと心に染みるように始め演り終える流れは見事だった。

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夜席は招待券客の入場に前座の桃月庵はまぐり『道灌』が蹂躙されるところから開始。前座の高座は興行時間外扱いとはいえ、毎度この招待券客の入場にはイライラさせられる。ただし、小屋側もいろいろ考えての施策ではあろうと思う。

桂三木男が柳家喬太郎作『夜の慣用句』だったのは、古典専門と勝手に思っていたので、意外であった。もっと線の細い印象があったが、もっともそれはよくよく考えたら駒春時代(私が見たのは2006年)の印象だと思い出した。その後あまり意識して三木男を見てなかったので、その成長に驚くのは当然か。それまでざわついていた客席の注目を見事に集める堂々たる高座だった。とはいえ、やはり同じ噺だけに、喬太郎と比べると笑いはまだまだと思った。あと前髪が下がってくるのはなんとかしたほうがいい。見ているほうが気が散るのである。

あとは大雑把な感想になるが、柳家さん喬『真田小僧』、桂南喬『大安売り』、林家たい平『ぞろぞろ』、五街道雲助『町内の若い衆』、吉原朝馬『六尺棒』などは、この日の昼席について「とんでもない発想の飛躍とか仕掛けなどがある落語も楽しいが、15〜30分くらいの短い時間でこうした肩の凝らない古典をしみじみ味わえるのも落語の滋味だなとつくづく思った」と書いたのと、まったく同じ感興を得た。

その合間合間に飛び道具的な楽しさがもう少しだけ多ければとも思ったが、それでもベルサイユ宮殿→ゴリラ振り→宝塚ネタ→ハッピー不動産と畳み掛けるにゃん子・金魚の漫才や、三遊亭圓丈の懐かしい『金さん銀さん』(金さんと銀さんの姉妹が苛烈な?骨肉の争いを名古屋弁で繰り広げる)など、爆笑を誘われる箇所はあった。ダーク広和のマジックは、客の引いたカードをQRコードを携帯電話で撮影させることで当てるというネタがものすごい地味ながら可笑しかったし、大変満足感を得た一日だった。

心残りは、古今亭菊千代という人の芸や佇まいがまったく自分の好みではないところと、蜃気楼龍玉『たらちね』から三遊亭天どん(ネタ失念)への流れでうとうとしてしまったところだが、これはいずれも自分の好みや酒量の所為。間違っても芸人や寄席の所為ではないし、また芸人各々には誠に失敬ながら、こういうところも寄席遊びの味わいだと思う。

さて、この日なぜ演芸ホールに出かけたといえば、きっかけは忘れたが11/9の日曜日にたまたま五街道雲助著『雲助、悪名一代』(白夜書房、落語ファン倶楽部新書。2013年刊)を読み返していて、で、翌月曜日に時間が空いたのでたまには寄席でも出かけようと予定を見たら、何の偶然か演芸ホールの上席が十代目金原亭馬生一門中心の芝居*2だったので(当代馬生は出てないが)、これもなにかのご縁かと浅草まで出かけた次第。

と、出かけてみたらこの日は五街道雲助門下の隅田川馬石が演芸ホールでの初トリという記念すべき十日間の楽日であった。なんの偶然かは知らないが、めでたい日に居合わすことになったのはうれしい。

その馬石は『甲府ぃ』。もともとそんなに好きな噺ではないし、馬石も雲助の弟子という意外にはあまり意識して聴いてこなかったのだが、この日の『甲府ぃ』は、これまでかかった古典同様聴き手の気持ちを揺さぶるための独特な工夫や外連味は一切なかったがとても深くしみじみとさせられ、豆腐屋の主人夫婦の若い頃の貧乏話と、サゲのお孝ちゃんの「お参り、願ほどき」の二カ所で、ほろりと来そうになった。とても気持ちのよい『甲府ぃ』であった。

先述のとおり、不勉強ながら、隅田川馬石のという噺家の魅力をこれまで強く意識して聴いたことがなかったのだが、この“初トリの楽日”という記念すべき高座でその魅力に気付かされ、落語好きとしてはうれしい経験をしたなあと強く感じた次第。とてもうれしかったので、帰途久々に浅草一代に寄り、これまたたまたま居合わせた落語好きの先輩と、思わず杯を重ねた。

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*1 ここまでに古今亭志ん八、金原亭龍馬、笑組、三遊亭天歌、柳家さん吉、ひびき・わたる、桂才賀、桂文楽、昭和こいる・あした順子、林家三平が上がっている。

*2 自分の勉強も兼ねて整理してみると、色物を除いて高座に上がった噺家が昼夜合わせて28人、そのうち十代目金原亭馬生に連なるのが、金原亭伯楽、金原亭龍馬、金原亭馬の助、金原亭駒三、五街道雲助、吉原朝馬(以上十代目馬生直下)、桃月庵白酒、蜃気楼龍玉、隅田川馬石(以上五街道雲助門下)、桂三木男(当代馬生門下)、桃月庵はまぐり(桃月庵白酒門下)の11人。ついでに古今亭志ん八と桂才賀が十代目馬生の弟の志ん朝門下、古今亭菊千代が古今亭圓菊門下である。まあほぼ半数が五代目古今亭志ん生につながる面々だったというわけだ。

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(11/11 21:08現在)今ざっとTwitter上の投稿を拾ってみたところ、馬石がこの芝居でかけたネタは11/1笠碁、11/2八五郎出世、11/3明烏、11/4干物箱、11/6四段目、11/7四段目、11/8八五郎出世、11/9締め込み、だった模様(今のところ11/5のみ不明)。
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸