2015年01月15日

前田一知、坂本頼光の二人会

於経堂さばのゆ前田一知・・・・・・時うどん
坂本頼光・・・・・・豪勇ロイド(フレッド・ニューメイヤー。ハロルド・ロイド。1923)
前田一知、坂本頼光トークおよび『活弁物語』抜粋(福田晴一。伴淳三郎、花菱アチャコ、徳川夢声。1957)
(仲入り)
前田一知・・・・・・御公家女房
坂本頼光・・・・・・鳥邊山心中(冬島泰三。林長二郎(長谷川一夫)、高田浩吉。1928)

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前田一知は故桂枝雀のご子息で、バンド活動や演劇活動の傍らときおり落語の活動も(昨晩のご本人曰く「アマチュアとして」)行っておられたようだが、ここ1〜2年くらいの間に落語の活動も活発になり、今では東京はさばのゆや道楽亭、大阪はさばのゆ温泉、神戸はホッとスタジオなどで、定期的に自分の会を催している(直近の会の予定を見ると、桂九雀、月亭遊方、東京の二ツ目らと共演する会もあり)。

声の感じや芸風が桂枝雀の小米時代を彷彿とさせる、という評もあるが、私は残念ながら小米時代を聴いていないのでわからない。が、昨夜聴いた『時うどん』や『御公家女房』(『たらちね』の親戚のような噺)はかなりしっかりと地に足が着いた感じの、落ち着いて聴ける古典で、変に無理矢理な笑いを入れ込むこともなく、元々の噺の妙味をじっくり味わえるものだった(彼の演る古典を聴いたのは初めてだったので、ちょっと驚いた)。

芸界の団体に所属し落語を専門に活動している方々と同列に語ることはできないとは思うが(その辺のニュアンスをお伝えするのは難しく、だからダメとかそういう話ではない)、どの会派にも属していない分、却って得難い芸に触れさせてくれるのではないかと思った。またそうなるよう、長く続けられることを期待する。

坂本頼光はオリジナルのネタ『サザザさん』などでも知られる(今や日本に十人しかいない)活動写真弁士(のひとり)だが、この日は『豪勇ロイド』(フレッド・ニューメイヤー。ハロルド・ロイド。1923)と『鳥邊山心中』(冬島泰三。林長二郎(長谷川一夫)、高田浩吉。1928)の二本を、実に小気味のいい間の活弁で楽しませてくれた。

活弁付きの無声映画を観たのは実に久し振りだったが、台詞音声のない映画に新しい命が吹き込まれる瞬間を久々に目撃し、大変感銘を受けた。坂本頼光も、ふだんは快楽亭の会などで疲労される際どいネタに触れることがほとんどなので、この日はそういうネタのもの凄さを裏打ちする芸の力を再認識。坂本頼光もまた、なかなか得難い芸人だと思う。

各々二席に加え、仲入り前と終演後の打ち上げ時に『活弁物語』(福田晴一。伴淳三郎、花菱アチャコ、徳川夢声。1957)の抜粋上映なども交えながら、無声映画と活動写真弁士に関するお喋りも繰り広げられ、これがまた初歩的な知識から深い内容まで渦を巻くもので、会場のさばのゆは私の家の近所なので雨上がりにちょいと気軽に一杯やるつもりで寄ったにしては、かなりずっしりといろいろなものを受け取った次第。

この二人会は不定期にでも続けるそうなので、次の機会も楽しみだ。
posted by aokiosamublog at 23:00| 落語/演芸